【書評】南場智子「不格好経営」誰に共感できるかによって適職診断できる(かも)

結論から書くと、今年読んだビジネス書のなかでは白眉。経営書なのに読み物としてめちゃくちゃ面白い。

マッキンゼーのパートナーという一方の極から事業会社をゼロから起ち上げて今の巨大企業を築くという一方の極を築いた著者の「魂の書」(あとがきより)。実体験の持つリアリティに加えて著者の軽妙な語り口に押されて一気に読み進められる。


興味深いことに、またあたりまえなことに、コンサルタントのバックグラウンドとしてのそれより人間臭い著者のキャラクターが垣間見える章ほど味わい深い。具体的には

  • 創業期の大トラブル(よくここでつぶれなかったな)
  • 高校時代から留学までの家庭事情(いろいろ熱いです)
  • 旦那さんの闘病と代表の退任(今は回復されたようでなによりです)

の3エピソードを特記したい。

 

実際は本書に書けない泥臭いことが山ほどあったのだろうけど(創業時の引き抜きとか)、そこは著者のオブラートにくるんだ筆致でうまく表現されているので実際のところはわからない。このあたりの小利口さと泥臭さをうまく書き分けていてときどき鼻につくけれど総じて良書。

 

その他に人の口説き方、時間の使い方、女性としての働き方、組織を伸ばす方法、成長期における悩みなど、実体験でもがいてきた著者にしか書けない多くの学びがある。多くのトラブルを潜り抜けてきた著者の過酷な12年に共感できれば、第6章末尾の一文にも共感できるはず。

 

正直いうとDeNAという会社やサービスにはほとんど関心がないのだが(ビッダーズをはじめモバオクもモバゲーすらも未体験)、時流を見極めて、今求められるサービスを求められるタイミングで市場に投入することを突き詰めるとこういう企業が伸びていくということが身をもって証明されていて、しかもこれからも上を目指していくという。実際に行うことの困難さが臨場感をもって綴られているので、同じスピード感を共有してみたい向きには一読を強く推奨。

 

余談だが、むしろ本題だが、本書の誰に共感するかで適職がわかるかもしれないね。

 

著者(書くことすべてに共感した。南場さん最高)

→起業家向き。やりたいことを見つけたらどんどん起ち上げましょう。

 

DeNA役員や従業員(こんな会社で仕事するのなんだか楽しそう。すごいことやりたい)

→ベンチャー従業員向き。素晴らしい経営者と出会って目標に向けてハードワークにいそしんでください。

 

ソニー法務部や弁理士さん(この著者はもしかしてバカですか?大丈夫?)

→マイペースで自分の領域を大事にする専門職向き。

 

マッキンゼーの新米コンサルタント(なにこれ失敗しすぎ、俺なら私ならもっとうまく経営できるのに。御社は負け犬ですとかなんとか)

→たぶんコンサルタント向き。でも第三者の視点でアドバイスするのは大事だけど実際に手がけるのは全然違うと思うよ。

 

誰にも共感できない(機動的だけどいろいろ落ち着きなさそうな会社だな)

→大企業の従業員向き。自分の仕事をしっかりやりましょう。

 

私はというと、創業期の著者に「もしかして、あなたバカですか?」と言い放った弁理士さんにいたく共感したのでした。そりゃ言いたくもなりますや。

 

会社そのものには依然としてぴんとこないけど、著者のファンになりました。

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